2013年12月16日

<公有水面埋立承認申請書に関する名護市長意見書>

普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認申請書に関し、沖縄県知事より同申請書に関する市長意見を求められていましたところ、平成25年11月27日付け名護市長より沖縄県知事に対し、下記の市長意見を提出しました。


<公有水面埋立承認申請書に関する名護市長意見書>


 1996年、橋本・モンデール会談により普天間飛行場の返還が合意されました。しかしそれは、県内移設という条件付きであり、多くの県民を落胆させました。

 移設候補先となった名護市では、住民投票で半数以上の市民が反対する中、普天間飛行場の代替施設受け入れ表明に始まり、七つの条件の提示、V字案での基本合意など、長きにわたりこの問題に大きく翻弄(ほんろう)され、市民が建設反対・容認で二分され続けてきました。

 あれから17年、この状況に終止符を打つべく、私は「辺野古の海にも陸にも新たな基地は造らせない」という公約を掲げ、2010年1月、市民の負託を得て市長に当選いたしました。これは沖縄県における民意の転換点であったと自負しております。時期を同じくして、「最低でも県外」を掲げた民主党が政権を担い、多くの県民が普天間飛行場返還の実現に大きな期待を抱くとともに時代の転換を確信しました。しかし、その公約も「辺野古移設回帰」という形で、もろくも崩れ落ち、県民は再度失意のどん底に突き落とされることとなりました。この「辺野古回帰」は逆に県内移設反対への大きなうねりとなり、沖縄県議会の「国外・県外を求める超党派の意見書」全会一致の決議や名護市議会議員選挙による与党多数、参議院議員選挙、そして沖縄県知事選挙と、沖縄県民の民意となって現れることとなりました。また、『オスプレイの配備撤回と米軍普天間飛行場の県内移設断念を求める「建白書」』を安倍晋三首相に手渡した2013年1月の東京行動には、沖縄県内全41市町村長が参加し、いまや普天間飛行場の県外移設は県民の総意となっています。

 戦後68年が経過した今、沖縄県民は基地に頼らない経済を実証するとともに、米軍基地の過重負担、不公平さを強く感じ、基地に対する怒りの声は既に頂点に達しています。

 沖縄県には、国土のわずか0・6%の面積に国内の73・8%の在日米軍専用施設が集中しています。また、20カ所の空域、28カ所の水域が米軍の管理下に置かれ、都市計画や公共交通システムの構築、漁業や水産業にも大きな影響を及ぼし、県土発展の妨げとなっています。

 戦後の日本は戦禍による荒廃から目覚ましい発展を遂げ、今日では経済大国の一つとして国際社会での地位を築いてきました。その発展の陰には、日米安保の最前線で米軍基地の大きな負担を担ってきた沖縄があります。その沖縄に新たな基地を建設するということは、戦後一貫して続く負担の更なる押し付けであり、それは本来日本国民全てが等しく担うべきもので、到底受け入れられるものではありません。

 本意見書作成にあたり、市民生活への影響について、行政組織として調査するとともに市民の声を直接聴取いたしました。これらを総合的に判断した結果、新たな負担を強いる基地の建設を認めるわけにはいかない、ということを確信いたしました。

 普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立について、事業者である国は「環境保全への配慮は適正であり、環境保全の基準又は目標との整合性も図られていると判断した」としていますが、環境保全に重大な問題があり、沖縄県知事意見における指摘のとおり、事業実施区域周辺域の生活環境及び自然環境の保全を図ることは不可能であると考え、本事業の実施については強く反対いたします。

 本件申請については、下記の問題が考えられますので、未来の名護市・沖縄県へ正しい選択を残すためにも、埋立ての承認をしないよう求めます。

【1 公有水面埋立法の要件を満たしていない事項について】



(1)第4条第1項第2号関連(環境保全、災害防止)

 公有水面埋立法(大正10年法律第57号)第4条では「都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲナスコトヲ得ズ」としており、同法公有水面埋立法第4条第1項第2号においては「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」としている。しかしながら、当該埋め立て事業が以下に記す内容について、環境の保全および災害の防止に配慮しているとは言えない。

 とりわけ、MV―22オスプレイ(以下「オスプレイ」という。)の配備については生活環境の保全、災害防止のいずれにも関わる市民が最も懸念している事項の一つである。


① オスプレイの配備に伴う懸念について

 オスプレイの配備については生活環境保全、災害防止いずれの観点にも関わり、市民生活へ与える不安が最も大きな問題の一つである。

 日米両政府は、オスプレイの配備に先立ち、平成24年9月の日米合同委員会で、その運用について「日本国における新たな航空機(MV―22)に関する合同委員会合意」を行った。しかし、10月・11月に行われた沖縄県による調査では、「普天間飛行場の外でも離着陸モードで飛行し、安全性に大きな危惧を抱かせる運用がなされている」ことなどを確認し、「合意」が全く守られていないことを明らかにしている。

 名護市においても、配備直後から国立沖縄工業高等専門学校(以下「沖縄高専」という。)裏および周辺着陸帯に離着陸するため、沖縄高専、久辺小学校、久辺中学校及び児童養護施設なごみの上空を離着陸モードで飛行し、辺野古集落上空を旋回するのが幾度となく目撃されている。平成24年11月6日には、2機編隊による離着陸・旋回訓練が確認され、辺野古区で最大で90・6デシベルを記録するなど、現状においても騒音による生活環境・学習環境等における音環境が破壊されている。

 こうした飛行実態を踏まえると、普天間飛行場代替施設(以下「代替施設」という)で24機のオスプレイが飛行する際の安全および環境保全措置については、実効性ある措置が求められるが、それが全く示されていない。また、低周波音対策を含む実態を踏まえた環境保全については、オスプレイの実機飛行を行い環境影響評価を行うことが必要であるが、米国での調査結果を示すのみで一切実施されていない。実際にオスプレイの低周波音の問題が深刻であることを明らかにした研究者からの指摘がある中、辺野古近隣集落の低周波音対策が全く示されていないのは重大な欠陥である。

 そもそも、オスプレイについては、開発段階から墜落事故を繰り返し、専門家からも構造的欠陥が指摘されている機種である。昨年4月にモロッコで、同年6月には米国フロリダで墜落し、今年8月には米国ネバダで着陸に失敗し機体が炎上する大事故を起こすなど、安全性についても常に問題視されている。

 また、レックス・リボロ元国防分析研究所主席分析官が米下院監視・政府改革委員会公聴会(2009年6月23日)で証言しているとおり、オスプレイはエンジン停止の際、安全に着陸するための自動回転(オートローテーション)能力がなく、海兵隊や製造業者のベル・ボーイング社も事実上これを認めている。日本の航空法(昭和27年法律第231号)では、「回転翼航空機は、全発動機が不作動である状態で、自動回転飛行により安全に進入し着陸することができるものでなければならない」(同法施行規則付属書第1)と規定しており、この基準に当てはまらない航空機は「耐空証明」を受けられないため「航空の用に供してはならない」(同法第11条)とされている。しかし米軍機は日米地位協定に基づき同法が適用されないため、沖縄の空をわがもの顔で飛んでいるというのが実態である。

 さらに、米国防総省監査室がまとめた報告書によると、オスプレイの機体整備や関連書類作成に多数のミスが見つかっており、海兵隊がこれまで示してきたデータは「信頼できない」とも結論づけられている。

 本来ならば環境影響評価の手続きを経て、その安全性が確認されるべきであるにもかかわらず当該手続きを経ず沖縄に配備しているのは、安全性への配慮を著しく欠いている。本事業の実施は、住民の安心・安全を保障するという地方自治体の最重要責務の遂行を危うくするものであり、到底認められるものではない。


② 生活環境保全への影響について

音環境の保全について

 名護市においてはキャンプ・シュワブで行われる廃弾処理やその他訓練による爆発音を始め、複数の着陸帯を利用した離着陸訓練や民間地上空での旋回飛行が日常的に行われるなど、周辺住民は深刻な騒音被害に悩まされている。

 爆発音については最大騒音レベルで100デシベルを超え、80デシベル以上が1日で30回以上記録された日もある。また、航空機騒音については久志区・豊原区・辺野古区における被害に加え、西側の許田区・幸喜区においても昼夜を問わずヘリコプターやオスプレイ等の低空飛行が行われており、その被害は深刻な状況にある。久志区では平成24年に年間990回の航空機騒音を計測し、最大で94・1デシベルを記録している。今年8月にはキャンプ・シュワブに隣接するキャンプ・ハンセンに米軍のヘリHH―60が墜落し、周辺住民に大きな不安を与えた。

 一方、キャンプ・シュワブ周辺には北部訓練場、キャンプ・ハンセン、新たな着陸帯が建設されている伊江島補助飛行場など、多くの米軍海兵隊基地や訓練場が点在している。

 また、現在の普天間飛行場では1日平均50回以上、年間約2万回の航空機離発着が行われており、騒音の被害は最大で120デシベルを記録している。平成16年8月には沖縄国際大学に米軍大型ヘリのCH―53が墜落するなど、住民生活を脅かす大きな問題となっている。

 今後代替施設が建設されると、周辺米軍海兵隊基地の拠点となり、現在のキャンプ・シュワブの騒音被害、普天間飛行場における騒音被害を鑑みても、音環境への被害増大は明らかである。


辺野古ダム周辺の土砂採取による影響について

 辺野古ダムは久志地域唯一の水がめである。その周辺における埋め立て土砂採取について、赤土等流出防止対策などの環境保全措置は示されているものの、沖縄特有の気候による集中豪雨や台風襲来時の降雨により、沈砂池等から越流する可能性も否定できないが、これらについて辺野古ダムへの赤土等流出防止対策が示されていない。

 また、名護市の久志地域水道施設整備計画においては、辺野古ダムを廃止して沖縄県企業局から受水するのは平成31年を予定している。一方埋め立てに係る概略工程においては、工程1年目から埋め立て土砂発生区域における土砂の採取が位置付けられており、土砂採取による辺野古ダムの水質汚染が起こった場合は、甚大な影響を受けることが懸念される。


キャンプ・シュワブ内からの土砂採取について

 キャンプ・シュワブにおいては、退役軍人がキャンプ・シュワブ内で「枯葉剤エイジェント・オレンジのドラム缶を幾つも見た」と証言している(2011年8月13日付けThe Japan Times)。

 一方、沖縄市のアメリカ空軍嘉手納基地の一部跡地にあるサッカー場から、ベトナム戦争時に使用されていたダイオキシンと思われるドラム缶が埋め込まれていたことが確認された。

 これらのことから鑑みると、キャンプ・シュワブ内からの土砂採取については、当然環境影響評価が行われるべきである。汚染された土砂を用いて公有水面の埋め立てを行えば、自然環境にはもちろんのこと、漁業や観光業等への影響も懸念される。


埋め立てによる生活環境への影響について

 代替施設建設に伴う公有水面埋め立てが行われれば、波高や潮の流れが大きく変わる可能性が高く、周辺環境が多大な影響を受けることが懸念される。

 特に、辺野古区民が日常的に憩いの場として利用している平島及び長島については、代替施設建設に伴う潮流のシミュレーションが正しく行われていないという指摘(日本自然保護協会(2012、2013))もある中、当該施設との距離が非常に近いことから、流れに大きな変化が生じたり、砂浜が消失するなどの影響が考えられる。それに伴い、今まで同様に利用することは困難となることが懸念される。

 また、代替施設建設予定地近くの天仁屋川河口からバン崎にかけた海岸に国指定天然記念物「名護市嘉陽層の褶曲(しゅうきょく)」があり、海流の変化等による海岸線の変化など、影響が懸念される。

 上記の理由により、潮流のシミュレーションを正確に行い、環境への影響をきちんと予測することが必要である。

 また、辺野古漁港周辺に設置が予定されている作業ヤードの建設が行われれば、松田の浜、東松根前の浜、ハーリー会場が消滅することになり、地域住民の伝統文化および地域間交流の場所が失われることになる。


漁業への影響について

 辺野古漁港で主に水揚げされるのは、ブダイ、タマン、イセエビ、サザエ等であるが、辺野古漁港近海ではブダイやタマン等の稚魚期も確認できるほか、久志・豊原地先でのモズクの養殖、安部崎でのシャコ貝の種苗放流等が行われている。

 代替施設建設に伴う公有水面埋め立てが行われれば、前項で述べた潮流の変化による周辺海域の環境の変化に加え、航空機による騒音や低周波音による海域生物への影響が懸念され、結果として漁業に甚大な被害を与えることが予測される。

 また、作業ヤードの建設により、辺野古漁港航路内および漁港泊地に土砂が流入する恐れも懸念される。


③ 自然環境保全への影響について

海草藻場について

 海草藻場は国の天然記念物に指定されているジュゴンの餌場であることはもとより、海域生物の生育環境の一部として辺野古・大浦湾の生物多様性維持を担っている。

 事業者は、代替施設建設に伴って消失する海草藻場について、移植をすることで対応するとしている。しかし、環境影響評価補正評価書(以下「補正評価書」という。)に書かれている海草藻場への評価は、海草の種ごとの特性の考慮や、被度が低い海草藻場に対する評価がなされていないなど、亜熱帯の海草藻場に関する専門的知見が反映されていない。補正評価書では中城港湾(泡瀬地区)の事例を挙げ、海草移植があたかも成功したかのように書かれているが、機械移植と手植移植のいずれも失敗に終わったことは明白である(日本自然保護協会(2007))。

 また、参照されている水産庁・水産総合研究センター(2008)の再生成功例も、生残率等が記されていない上、限定された種のみを対象種とするなど、厳密に検証されていないものである。

 さらに、補正評価書で海草移植候補地とされている豊原沖、久志沖は、海草移植候補地としてふさわしくないとの調査結果もある(日本自然保護協会(2013))。

 よって、代替施設本体や海上ヤードを含む関連施設の建設に伴い海草の移植を行っても失敗に終わることは明白であり、自然環境に大きな影響を及ぼす。


ジュゴンの生息環境の保全措置について

 補正評価書におけるジュゴンの個体群等が科学的に正しく評価されていない。個体群および個体群存続可能性分析(PVA)が行われているが、ここで用いられているジュゴンの繁殖率等に関する数値は、沖縄のジュゴン個体群にそのまま適用できるものではない。

 また、分析に用いられている環境収容力についても、生息地を「沖縄島周辺」と「先島諸島を含めた沖縄県全体」の2ケースを想定し、その広範囲に占める海草藻場面積と消失面積の割合を示すなど、実際のジュゴン生息域よりも広い範囲で評価が行われている。しかし、特に近年において、ジュゴンやジュゴンの食み跡が確認されているところは沖縄島北部の沿岸であり、それを反映させた定量的な予測・評価が行われていない。

 事業者は平成24年に行った調査で代替施設建設予定地でのジュゴンの食み跡を確認していたにもかかわらず情報を公開しないばかりか、評価書において「ジュゴンは辺野古・大浦湾の海を利用していない。したがって辺野古での基地建設とその運用はジュゴンの存続にあまり影響しない」との旨結論している。しかし、大がかりな事前調査で辺野古・大浦湾の海をかき回し、ジュゴンを追い出した上で行われた調査の結果は、食み跡のデータを公表しなかったことも加え、極めて信ぴょう性に欠けると言わざるを得ない。

 辺野古・大浦湾には、豊かな海草藻場があることは事業者の調査でも明らかである。3頭生存するとされるジュゴンのうち、一番若い個体が他の個体と競合しない自らの餌場を求めて行動していると予想され、沖縄島最大規模とされる辺野古の藻場を保全することがジュゴン保護にとって不可欠である。

 さらに、「工事による影響と判断された場合は速やかに施工方法の見直し等を行う」とあるが、どのようにして工事の影響かどうかを判断するのかすら不明であり、同様に「米軍にマニュアルを提供する」等、具体的な方法は一切示さず、後は米軍任せにする姿勢など、実行可能性に乏しい。


サンゴ類の生息環境の保全措置について

 サンゴ類は海草藻場同様、辺野古・大浦湾の生物多様性維持において極めて重要な役割を果たしている。しかし、事業者は辺野古・大浦湾海域のサンゴ類の生息現状を過小評価している。評価書の中で用いられている過去のサンゴ被度のデータは適切でなく、現状やサンゴ類のポテンシャルの評価ができていない(日本自然保護協会(2013))。沖縄島の周辺海域におけるサンゴの生息状況の調査(沖縄県自然保護課(2011))では、サンゴの被度が10%以下の分布を示す海域が多いことがわかっている。他方、辺野古海域のサンゴ類の生息状況については、礁斜面では被度が約40パーセントまでに回復するなど、良好であることはまちがない(沖縄リーフチェック研究会(2013))。これらのことから、沖縄島の周辺海域と比較して特にこの海域のサンゴ類の生息状況が悪いとは言えず、「本海域のサンゴ類の生息状況は良好ではない」とする補正評価書の記述は誤りである。

 また、事業者は日本に生息する400種以上のサンゴを識別しておらず、評価書では「サンゴ」とひとくくりに扱っており、その姿勢は移植技術の導入方法についても同様である。環境保全措置としてサンゴの移植を位置付け実施するのであれば、どのような環境(場所)のサンゴ群集・群体をどのような環境(場所)へ移動するのか、その成功率はどの程度のものになるのかを工事開始以前に検証すべきである。

 サンゴ移植は確立した技術ではなく不確実性が高く、日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会が公表した「造礁サンゴ移植の現状と課題(2008)」にもサンゴ移植がサンゴ礁の保全や再生にどの程度寄与するか不明であると記されている。したがって、移植技術はサンゴ類の環境保全措置として取り上げられるような状況にはない。移植とともにサンゴ類への環境保全措置として挙げられているのはケーソン等の表面への加工のみであるが、こちらも保全効果の程度は低い。


ウミガメの生息環境の保全措置について

 補正評価書によると、ウミガメに関して、平成19年度からの5年間の調査のうち、キャンプ・シュワブの地形改変地域において、平成20年度からの4年間は連続して上陸し、そのうち平成20年度からの3年間は産卵し、平成20年度と平成21年度は孵(ふ)化が記録されている。また上陸数も、安部からバン崎に次いでキャンプ・シュワブが砂浜が多い。さらにはメディアの情報公開請求により、ウミガメがこの海域を利用していることが、より一層明らかになった。これらの結果からわかるのは、ウミガメは確かにキャンプ・シュワブの砂浜を利用しているということであり、キャンプ・シュワブ地区の海岸を「上陸には好適ではない」、「産卵の可能性が低い」などと評価している補正評価書の記述は誤りである。

 また、環境保全措置として記している「ウミガメ類の上陸、産卵にとって良好な環境条件を整え、利用しやすい場を創出する」という記述も、上陸数と砂浜のコンディションとの関連性すら見つけられない状況でありながら実効性を伴うとは考えられない。

 本来、本海域から他の海域にウミガメが逃避しないような環境保全措置を取るべきであり、補正評価書に記述されているように日本の沿岸域のウミガメ類が減少傾向にあることを取り上げ、逃避しても影響はないとする判断は誤りである。


埋め立て土砂について

 公有水面埋め立ての認可に当たっては、使用する埋め立て土砂の採取地および埋め立て地の双方における環境保全措置が適切なものであると確信できることが必要不可欠の条件である。にもかかわらず、環境影響評価の時点では事業実施に必要な埋め立て土砂の調達先の詳細が記載されておらず、公有水面埋立承認願書にてその詳細が初めて明らかにされた。

 辺野古・大浦湾の生物多様性豊かな海は、やんばるの森とともに世界自然遺産の登録候補地であるが、外来種の移入阻止に向けあらゆる努力を払うことが登録の必須の条件となっている。しかし、本件埋立申請においては、「外来生物法に準拠した対策を講ずる」とあるものの、外部から購入する土砂に、生態系に悪影響を及ぼす外来生物が混入しているかを誰がどのように確認するのか、すなわち混入している場合の供給元における適切な駆除、駆除されたことの証明、影響を及ぼさない材料の選定を担保するプロセス等が示されていない。これでは混入を防ぐことはほぼ不可能であり、希少な動植物が生息している「やんばる」の特異な環境にとって、外来種が混入する可能性が高く、環境保全上大きな問題がある。

 また、沖縄県内から購入すると記されている海砂60万立方メートルについても調達先の詳細を明記し、埋め立て地ならびに土砂採取地双方において適切な環境保全措置が講じられるとの保証がなされるべきである。


沖縄島周辺からの購入土砂運搬経路と海砂の採取について

 代替施設建設に伴う公有水面埋立てに用いられる沖縄島周辺からの購入土砂の運搬経路は、辺野古・大浦湾海域から古宇利島周辺のジュゴンの回遊ルートとほぼ同じであり、船の航行や音・震動がジュゴンに与える影響が明らかにされておらず、環境影響評価を実施すべきである。

 また、海砂の採取について、その採取地点の詳細な場所は不明なものの、ジュゴンが餌場としている海草藻場付近の海域も含まれており、採取時の濁水を始め、海砂採取による海底地形の変化とそれに伴う海流や地形の変化が海草藻場にも大きな影響を与えることや、ジュゴンを始めとする当該海草藻場を利用する海域生物への影響も懸念される。


④ 災害防止への影響について

津波の被害について


 沖縄県津波被害想定調査(平成25年3月)の津波浸水予想図では、今後沖縄県で起こり得る最大クラス(マグニチュード7・8~9・0に設定)の地震による津波では名護市東海岸地域の最大遡上高は嘉陽地点で27・5メートル、瀬嵩地点で20・7メートル、久志地点で18・6メートルと予測しており、公有水面を埋め立て、水面から10メートルに設置される代替施設は甚大な被害を受けるとともに、海流の変化により津波の遡上高が高まり、その影響は周辺地域にも及ぶ可能性が想定される。


辺野古川周辺における冠水等について

 事業者の見解によると辺野古川は「冠水等の災害については、環境影響評価の対象ではない。作業ヤードの河川側護岸の整備に伴い、河川の流れが現状により円滑になるものと考えられ、少なくとも現状より悪化することはない」としている。しかしながら、辺野古川周辺は、現状においても台風のたびに道路の冠水や家屋の浸水等の深刻な被害に悩まされている地域であり、作業ヤードの設置に伴い河口が狭まることにより災害リストがさらに高まり、周辺住民の生活がこれまで以上に脅かされることが懸念される。そもそも台風時の影響については、代替施設建設事業全体通じて環境影響評価法の趣旨に沿った評価が行われていない。



(2)第4条第1項第3号関連(国または地方公共団体の計画等)

 公有水面埋立法第4条第1項第3号では「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)」ノ法律ニ基ヅク計画に違背セザルコト」としている。しかしながら、当該埋め立て事業の実施は以下に記す国や県そして名護市の計画等に違背し、甚大な影響を与えることとなる。


① 国の計画等について

「生物多様性基本法」について


 生物多様性基本法(平成20年法律第58号)では、「地域固有の生物の多様性の保全を図るため、わが国の自然環境を代表する自然的特性を有する地域、多様な生物の生息地又は生育地として重要な地域等の生物の多様性の保全上重要と認められる地域の保全等に必要な措置を講ずるものとする」と規定している。また「絶滅のおそれがあることその他の野生生物の種が置かれている状況に応じて、生息環境または生育環境の保全、保護および増殖のための事業その他の必要な措置を講ずるものとする」としている。


「生物多様性国家戦略」について

 生物多様性国家戦略においては、2012年から2020年までの目標や望ましいイメージとして、沿岸地域においては「藻場・サンゴ礁等の保全や生物の生息・生育環境の再生・創出」等を挙げている。また、南西諸島等においては「ジュゴンが泳ぐ姿やウミガメの上陸・繁殖が見られる」というイメージを掲げており、生物多様性を保全するために自然環境や生息・生育域、また、生態系の保全を推進することを目標としている。


「奄美・琉球諸島」の世界遺産登録に向けての取組について

 日本政府は、固有な動植物の保護、絶滅のおそれのある種や生物多様性の保存等を理由に「奄美・琉球」を世界遺産暫定一覧表に自然遺産として記載することを決定し、今後記載のために必要な文書をユネスコ世界遺産センターに提出するとしている。

 以上、公有水面埋立法第4条第1項第2号の要件を満たしていない事項の(3)「自然環境保全への影響について」で明らかにしたとおり、本件埋め立て事業はこれら国の生物多様性保全の計画等と整合しない。


② 県の計画等について

「生物多様性おきなわ戦略」について


 沖縄県は、生物多様性基本法に基づき、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する県の基本的な計画として、生物多様性国家戦略を基に「生物多様性おきなわ戦略」を策定している。同戦略の中で、「目指すべき北部圏域の将来像」としてジュゴンとその生息環境の保全、ウミガメが産卵する砂浜の保全、また、サンゴ礁の保全を掲げている。さらに、生物多様性の損失を止める具体的な取り組みとして、生態系を保全する区域の拡大を図るとともに、世界的に貴重な自然環境の世界自然遺産登録を目指すとしている。


「自然環境の保全に関する指針」について

 「自然環境の保全に関する指針」は、沖縄県における環境保全の基本となるべき指針である。大浦湾一帯の生態系は山・川・海が連動し、独特の生態系を絶妙なバランスの中で維持している。同指針の中で、大浦湾を有する当該事業実施区域およびその周辺域は「自然環境の厳正な保護を図る区域」として「ランク1」と位置づけられており、沖縄県内において生物多様性保全上最も重要な地域の一つである。また、埋立土砂発生区域の大部分はリュウキュウマツ群落等から沖縄島北部の極相林であるイタジイ群落へ遷移が進む「自然環境の保護・保全を図る区域」で「ランク2」に位置付けられており、近い将来「ランク1」になる可能性があるとされている。


「琉球諸島沿岸海岸保全基本計画」について

 琉球諸島沿岸海岸保全基本計画においては、沿岸域を県民、国民、そこに生息する動植物の共通の財産と位置付け、海岸を維持、復元、創造し、次世代へ継承していくことを海岸保全の基本理念としている。この理念のもと、各種海岸災害からそこに暮らす人々の生活を防護し、美しい海岸や動植物を保全するとともに古くからの伝統行事や日常生活の場として、あるいは観光資源としての価値の高い空間を確保し、防護と環境、利用が調和した総合的な海岸の保全を推進するとしている。

 辺野古・大浦湾周辺を有する名護市東海岸地域については、同計画の中でも「北部東ゾーン」として、「崖海岸が多くほぼ全域に貴重な自然植生、リーフ内環境及び優れた海岸景観を有しており、優れた自然環境が観光資源ともなっている」として高い評価を受けており、また、「良好な自然環境の保全と点在する集落で生じている海岸災害の防止が望まれる」としてる。

 国の計画等と同様に、本件埋め立て事業はこれら県の計画等と整合が取れない。


③ 市の計画等について

「第4次名護市総合計画」について


 第4次名護市総合計画(平成21年3月)においては、『豊かな自然や限られた地球環境を維持しながら、人と自然と地域社会が生命豊かに支え合う「共生のまち」』をうたっている。また、当該事業実施区域周辺に関しては、市東海岸地区として、その将来目標に「地域風土を生かした交流空間の形成~自然と共生する地域環境づくり~」を掲げ、四つの基本方針を示している。

 1)自然を活用した交流の支援
 2)地域の生活支援とコミュニティー環境の整備
 3)金融・情報通信国際都市構想の推進
 4)農水産業を中心とする産業基盤の育成

 その基本方針に基づき、具体的な事業としては、二見以北地域の活性化に向けて、その拠点である「わんさか大浦パーク」を中心に、「やんばる風景花街道」や「大浦マングローブ林自然体験施設整備」、旧嘉陽小学校跡地を利用したウミガメの幼体飼育・観察や回遊調査を行う調査施設の整備等、自然を活用した取組が実施されている。


「名護市景観計画」について

 名護市景観計画(平成25年3月)では、「三つの海とやんばるの森に抱かれた山紫水明 あけみおのまちなご」を市の景観将来像として定め、市の景観形成方針の中では「青く澄んだ三つの海と緑深きやんばるの森がつくりだす特徴ある景観をまもり、育て、いかす」としている。また、市東海岸地域における景観将来像を「緑豊かな山々と懐深き大浦湾 花と緑が育む朝日輝く水の里東海岸」として定め、東海岸地域の景観形成方針の中では「東海岸景観軸では、自然と調和した印象的な沿道景観を育てる」としている。


「名護市都市計画マスタープラン」について

 当該事業実施区域周辺は、名護市都市計画マスタープラン(平成18年8月)において、「21世紀モデル都市の創造」(地域の活力を導く21世紀型産業の振興と人々が安心して住めるまちづくり)を将来像として定め、情報通信・金融関連産業の集積による新産業都市の形成と、高等教育機関、雇用人材育成機関、技術研究機関等の集積による研究・学園拠点の形成を図り、これら各拠点機能を支えネットワークする基盤を確保するとともに、定住・交流を推進する質の高いリゾートタウンの形成を目指すと位置付けられている。


「名護市土地利用調整基本計画」について

 当該事業実施区域周辺は、名護市土地利用調整基本計画(平成18年8月)において、北部振興の一翼を担う地域として、教育・研究や情報・通信・金融業務、産業・交流、医療・福祉機能等や生活基盤の充実により地域の都市機能の強化を図る地域として周辺の優れた自然環境に留意した名護市の「副都心」として位置付けられている。


「名護市観光振興基本計画」について

 名護市観光振興基本計画(平成25年3月)では、基本コンセプトを「自然とまちが融合した魅力あふれる“やんばる観光の拠点・名護”」としている。その将来像は「先人たちが守り育んできた地域資源の魅力によって誘客を図り、観光客と市民の交流を通して産業が育まれ、自然とまちの魅力が共存する北部の観光拠点として発展するまち」としている。

 国、県の計画等と同様に本件埋め立て事業は、名護市の土地利用または環境保全に関する計画等と整合せず、本市の基本理念の一つである『豊かな自然や限られた地球環境を維持しながら、人と自然と地域社会が生命豊かに支え合う「共生のまち」』に反しており、名護市の将来に大きな影響を与える。



(3)第4条第1項第1号関連(国土利用上適正かつ合理的なること)

 公有水面埋立法第4条第1項第1号においては「国土利用上適正カツ合理的ナルコト」としているが、当該事業の実施については、上記同法第4条第1項第2号および第3号関連で指摘した理由から、国土利用上適正かつ合理的とはいえず、同法第4条第1項第1号に違背している。



【2 事業の不適切性について】


「国外・県外への移設が適切でない」との事業者の主張について

 日本政府は、抑止力の観点、地理的な観点、そして普天間飛行場の危険性除去において、「普天間飛行場代替施設の建設は辺野古とするのが唯一有効な解決策である」としている。しかし、グアム、オーストラリア、ハワイへの9000人の在沖海兵隊移転の計画や、2018会計年度をめどに予定されているオーストラリアへの強襲揚陸艦配備の計画などを鑑みると、新たな基地を建設することが本当に必要なのか整合性がとれない。現に、沖縄県知事公室地域安全政策課が発行した「変化する日米同盟と沖縄の役割」の中で、新アメリカ安全保障センターのパトリック・クローニン上級顧問は「最適とは言えない可能性のある計画に多額の投資を行い、損失を生む前に、軍事計画立案者の意見に耳を傾けるべきだ」と辺野古移設に異論を唱えている。また、ジョージ・ワシントン大学のマイク・モチヅキ教授らは「米国がアジア太平洋地域で果たす安全保障上の役割を損なうことなく、海兵隊の沖縄駐留を大幅削減することは可能だ」と提言している。

 よって、「普天間飛行場代替施設の辺野古移設が唯一有効な解決策である」と断定する事業者の主張は整合性を欠き、ただ単に普天間飛行場の危険性を辺野古に移すだけである。


環境影響評価の手続きについて

 環境影響評価は科学性と民主性を二本の柱とする行政手続きであるが、先に述べた大がかりな事前調査がジュゴンを辺野古の海から追い出した可能性の検証がされていないことなどは、科学性を欠くものである。また、オスプレイの配備、飛行経路の変更等、市民が意見を出すことのできない環境影響評価の最終段階である評価書において明らかにしたのは、本計画のずさんさを象徴している。

 とりわけ、オスプレイに関して埋め立て承認願書に添付された環境保全計画は平成24年12月末に提出された補正評価書そのものであるが、これはオスプレイ配備前の平成24年2月・3月に知事が提出した環境影響評価書に対する579件の意見に対応して作成されたものである。そのため、平成24年10月のオスプレイ配備以後明らかになった問題に全く対応していない。結果、低周波音の評価ではCH―53ヘリコプターでは基準値を下回ったが、オスプレイでは基準値を上回った結果となり、環境影響評価書で矛盾を露呈している。

 飛行経路についても、方法書や準備書の中では「周辺地域上空を回避する」という平成18年の名護市長および宜野座村長との基本合意を基に台形となっていた。しかし、評価書の段階で楕円(だえん)形へと変更され、「周辺地域上空を基本的に回避する」とし、住宅地上空の飛行を明確に否定していない。また、米軍の「運用上の所要等」で楕円形場周経路を外れる場合もあるとし、事実上住宅地上空を飛行することがあることを認めている。これまでの米軍の運用を踏まえると、日常的に住宅地上空を飛行する可能性が極めて高い。

 これらに加え、事業者がジュゴンの食み跡やウミガメの上陸を公表せず「不都合な真実」を隠してきた姿勢等は「建設ありき」「結論ありき」で環境影響評価の基本理念を無視しており、その要件である市民への公開性をも満たしておらず、科学的にも民主的にも評価が行われていない。

 よって、環境影響評価法の正しい手続きを踏んでいない保全措置の計画は、環境影響評価書に対する知事意見で示されたように、「生活環境や自然環境の保全に資することは不可能」である。


美謝川の切り替えについて

 美謝川の切り替えは、多自然型工法により、人工的な水路の形状をできるだけ自然河川に近づけることが目的ならば、現在の美謝川の生物相や生態系を、どの程度代償することができるのか、評価するべきである。


一般廃棄物の処理について

 事業者は代替施設からの一般廃棄物の受入れについて、名護市に新たに整備されると想定される最終処分場の利用を視野に入れ、「今後、名護市との調整に努めます」としているが、名護市が進めている名護市一般廃棄物処理施設整備計画(焼却施設、最終処分場、リサイクルセンター)は、米軍基地から排出される一般廃棄物の受入れを想定した計画とはなっていない。


企業局から取水することについて

 事業者は取水に関して「将来は沖縄県企業局からの供給を受けることになる」としているが、水道事業者である名護市が一般の需要者に水を供給する事業であるのに対し、沖縄県企業局が行っているのは「水道用水供給事業」であり、水道事業者に水道用水を供給する事業である。よって、代替施設は沖縄県企業局の給水対象ではないことから、沖縄県企業局から直接給水できない。



【3 市民の声】


 名護市では当該埋立事業に係る市長意見を沖縄県知事に提出するにあたり、平成25年8月1日から10月31日の間、名護市民および名護市外に在住する名護市出身者からの意見募集を行った。その結果、子供から戦争を体験された高齢者までさまざまな世代の市民から意見が寄せられた。これらの市民意見については、当該事業に関しては「反対である」という意見が圧倒的多数を占め、「賛成である」という意見も少数みられるものの、当該事業実施に伴う自然環境や生活環境への影響を危惧し、安心・安全な生活が脅かされるのではという切実なる意見が多く寄せられた。以下は実際に寄せられた市民の声である。


(1)移設に反対する声

〈自然環境の観点〉~美しい自然は私たち沖縄の財産~


・われわれの先祖から生きてきた豊かな海、ジュゴンが遊泳する海を埋めること自体、自然破壊であり世界の潮流に反する。

・名護親方は六諭衍義で、自然を大切にすることを教えている。

・埋め立てにより大浦湾の自然や辺野古ダム周辺の自然が破壊され、貴重な生き物たちが消えることは火を見るよりも明らかである。

・わんさか大浦パークでは、自然を活用した仕事づくりに取り組んでいるが、埋め立てによる自然環境への影響が懸念される。

・僕は沖縄のきれいな海が大好きです。夏は父や弟と釣りや海水浴をします。でも飛行場ができると大好きな海で遊べなくなるからです。

・辺野古のキレイでジュゴンがいる海がなくなるのは、いやです。なにより、沖縄のキレイな海を埋立てるなど、ありえないです。

・ジュゴンやニモがすむうみに、きちをつくらせないでください。きれいなへのこのうみをまもってください。

・海をうめ基地をつくるのは自然をこわすことなので反対です。今のかんきょうだと気持ちよく暮らせるのに、基地をつくってぎゃくにこのまちにくらす住民がこまるだけ。あきらめるまでいいつづけます。

・沖縄戦で、陸がすべて焼け野原になった後、海の幸で命をつなぎ、子どもたちを育てた体験が、二度と戦場の哀れさを子孫に体験させたくない思いと、自然に対する深い感謝という二つの柱となって支えてきた。

・辺野古に住んでいた94歳の老女が、方言交じりで懸命に訴えていた光景が目に焼き付いて離れない。「戦後、命からがら帰ってみると、草一本も生えていない。私の命を助けてくれたのは海。海に入ると海草、貝、魚と口に入れることができた。その海を傷つけたくない」と涙ながらに話しておられた。


〈生活環境の観点〉~騒音、墜落、事件・事故への不安・恐怖~

・久辺3区は現状においても実弾射撃訓練、廃弾処理、夜間飛行訓練等による騒音被害が著しく、代替施設建設により生活環境・学習環境が大きく影響される。

・久辺3区と西側の許田、幸喜、喜瀬などは航空機による被害の状況は、我慢の限界。

・代替施設建設に伴い、シュワブの人口が6400人増えるとのことだが、これまでもシュワブ周辺地域では米軍人等による事件・事故が多数発生している。周辺地域住民の安全・安心の保証がない辺野古への移設には、絶対反対。

・米軍の飛行機による騒音は深刻で、現在でも子どもたちの学習環境に支障をきたしている。教育関係者として、これ以上教育環境が悪化することは容認できない。

・ヘリが飛んで、授業に集中できなくて困っています。ヘリをなくしてほしいです。

・オスプレイがいつ墜落するか分からないので、いつもびくびく過ごしたり、騒音のせいで授業が中断されるのもいやなので反対。

・オスプレイが落ちるのがこわいから、あたらしいきちはいらないと思います。

・騒音被害や飛行機墜落の危険性、米軍人・軍属関係者による犯罪被害など、県中南部の基地周辺の状況を考慮すると、名護市に移設されれば生活環境は確実に悪くなる。

・作業ヤード建設に係る埋め立てにより、辺野古川の河口が狭まり、洪水被害が増大し、辺野古区民の生活が脅かされる。

・名護市民は、安全で平和な生活を営む権利を憲法が保障しているが、現実には米軍基地が集中し、事件・事故や騒音が相次ぎ平和に生きる権利が大きく侵害されている。


〈基地の過重負担等の観点〉~国土の0・6%に74%もの米軍専用施設~

・沖縄の基地負担軽減って一体何?名護は沖縄じゃないの?

・沖縄には、これ以上基地があってはいけないと、僕は思います。僕は、基地をへらし、良い日本にしたいです。

・辺野古移設は普天間の危険性を減らすということだが、右のポケットから左のポケットに移すようなもので、負担軽減にはならない。

・安倍政権が日米安保条約を維持したいのであれば、普天間移設は沖縄県外に求めるべきである。日本の安全は全国民が等しく負担すべき。

・負担軽減どころか、新たな機能をも備えた巨大な基地を造ろうとしている。基地あるがゆえに苦しみを訴える県民の切実な思いを踏みにじるものだ。

・0・6%の沖縄に74%の基地が集中し、まさに「基地の中に沖縄」があると表現され、県民の生命・財産・自然破壊が続いている。もう我慢できない。

・これ以上、沖縄県が日本の犠牲になって辺野古に基地を造らせることは、先の戦争で尊い命を失った人々に対する冒涜(ぼうとく)行為である。

・小さな沖縄に7割以上の基地を負担させ、“軽減”とはうそ。他県の使用していない飛行場に移すことが税金の無駄遣いを防ぎ、早道。基地を必要としない国づくりをみんなで考えよう。

・政府・本土に対して応分の基地負担を粘り強く声高に主張しよう。いかなる理由があろうと、普天間の県外移設を断念してはいけない。

・「県外国外への訓練移転で負担軽減だ」と強調しているが、沖縄に常駐している限り根本的解決にはならない。2プラス2で「辺野古が唯一」と言っているが、あからさまな沖縄差別。「唯一の解決策」との決めつけ議論はもうやめてほしい。


〈日本政府に対する不満・怒りの声〉~基地の押し付けに反対~

・人口が少ないからという理由で、命の差別を平気で行う政府に、私は声を大にして訴える。「人口の多少にかかわらず人の命に重い軽いはない」。

・日本政府は米国の政見に応じ、県民の意向をおろそかにし、だしにして日本の国を守る政治を行っている。絶対に許せない。

・「美しい日本」と唱える首相は、沖縄は日本でないと考えているのか。沖縄に基地を押し付け、辺野古の海を破壊して基地を建設しようとしている。

・基地を押し付けるのは、差別だ。戦前の美しい沖縄県を取り戻すことが、大戦で多数の犠牲を出した沖縄の人々への国としての償いだ。

・辺野古移設問題は差別政策以外何物でもない。何かというと沖縄の負担軽減だと言い、狭い沖縄に新たな基地を造る。何が軽減か、言語道断。

・国の押し付け政策や振興策に振り回されることなく断じて新たなる基地建設に反対する。

・オール沖縄で反対をしているにもかかわらず、それを押し付けるということはまさに民主主義の否定であり、政治の取るべき道ではない。

・県民の8割がNOをつきつけているのに、移設計画が浮上すること自体が疑問。危険な新基地を、なんとしても沖縄にという政府の強い意図が感じられる。政府の“説得”ということが理解できず、”脅迫”にすぎない。

・沖縄差別の歴史に終止符を打つためにも、新基地建設を撤回させよう。この機会を逃せば、いつまでも差別される。米国とその手下となっている日本政府の横暴を、絶対に許してはいけない。

・私は第2次大戦で日本軍の基地があったため、父を失い家や財産も失った。日本政府はまだ沖縄(名護)の住民を第二国民、いやそれ以下の国民扱いにするのか。断じて許せない。


〈未来へ名護市・沖縄の財産を継承する〉 ~子どもたちの明るい未来のために~

・基地の県内移設では何も解決しない。子や孫たちの時代にまで基地問題を残したくない。次代に継げるのは、豊かな自然環境と平和、心豊かな名護市です。

・市民のかけがえのない生命・自然を守りぬき、真に平和で住みよい沖縄を子や孫に引き継ぐという責務を肝に銘じて、市民一丸となって頑張ろう。

・子供たちがオスプレイ等の低空飛行訓練で、勉強中や遊んでいるときに耳をふさぐ光景や、サッシの中で過ごさなければならないような環境にならないか心配。将来安全で静かな故郷を残したい。

・これから結婚し子どもを産む女性にとって、今のままの自然環境が大事です。子どもたちのすこやかな成長のために、新基地建設は絶対反対です。

・大学時代、宜野湾に住んでいたので、あの生活環境が名護北部に来ると想像すれば、恐怖と嫌悪感を抱く。子孫に平和で安心して過ごせる環境、当たり前の環境を与えることが大人の務め。

・この島に生きる一人の人間として、子どもたちに引き継ぐ未来を考えたとき、今ここにいる大人の責任として、基地を造らせるわけにはいかない。

・豊かな自然はこれから未来を生きていく子どもたちの手の触れる場所にあるべき。米兵に脅かされない本当の豊かさを、これから生きていく子どもたちに残してあげたいと切に願う。

・お金に惑わされない強い信念を持って、将来の子、孫のために最後まで頑張ろう。

・国からの交付金を多くもらうために犠牲を払うより、次世代の名護市のために何を残すことができるか、しっかり考えて行動すべきである。自然破壊や基地の“負の遺産”などではない。

・「あけみおのまち名護」、まさしく山紫水明・やんばるの自然豊かな文化と人々の暮らしの未来永劫(えいごう)を希求するものとして、幾重に育んできた過去から現在、現在から未来への贈り物である。


〈経済的な観点〉~基地に頼らなくてもやっていける~

・「ランク1」の海域を埋め立てるのは、観光立県を目指す沖縄県にとって大きな損失。

・観光の柱は、“美しい自然、海、伝統的文化、芸能、街並み等の地域景観、地場産の海産物”ではないか。辺野古に基地を造ることは、そのすべてにマイナス効果をもたらす。

・米軍基地は経済的にマイナスになっており、今後の観光、運輸、情報産業などで妨げとなる。

・基地で栄えた町はない。破壊された自然は二度と元には戻らない。お金をもらって危険を受け入れるなんておかしい。普天間の機能は本国へ移すべき。

・基地経済に依存せず豊かな自然を活(い)かした自主経済を目指し、安心安全な地域で、お金では買えない命・人間の真心を守りたい。

・名護市は今、移設ではなく基地を減らし大自然を守る事業に取り組むべきだ。

・名護市は「基地に頼らないまちづくり」を掲げており、地域住民の意識も「自立した地域づくり」に取り組むという姿勢に大きくシフトしてきている。

・一部の方たちが金のために進めている。名護市の経済や町の繁栄に長期的にはならないし、市民投票でも結論は出ている。

・二見以北10区は力を合わせ、なんとか活性し、人口増加を願って頑張っている。自然を活かし、より多くの方々に来ていただける地域を作りたく頑張っている。基地ができれば誰が来てくれますか。この地域が自立し、自分たちの力で多くの方々に来ていただいて、活性化を図るために絶対基地はだめ。要らないし、造らせない。

・基地返還地の発展は、沖縄経済が「基地依存」ではないことがあらためて証明された結果。この結果を見ずして新たな基地建設をするということは、日本政府が沖縄にさらなる足かせを強要し、経済発展を阻止しているとしか思えない。美しい海を埋め立てての観光立県はありえない。


〈その他〉~ウチナーンチュの魂と誇りにかけて~

・ウチナーンチュの魂と誇りにかけて、戦争につながる基地建設に反対します。

・山原や名護の美しい自然を守り活かして生きていくことが、名護や山原の人々のアイデンティティーである。

・普天間代替施設の建設を県内で容認することは、過重な歴史を経てきた沖縄にとって新たな負担と差別を押し付け、沖縄の自然だけでなく自信と誇りを喪失させる何ものでもない。

・戦後アメリカの占領下で国際法規にも違反して、銃剣とブルドーザーで強奪された。辺野古の新基地建設を認めると、歴史上初めて自らの意思で基地建設させることになる。市民、県民、人間としての誇りにかけて拒否すべきものだ。

・先祖代々の為にも頑張りたい。名護で生まれ、南米で育ち、名護に帰ってきた。市内に向かう車で大浦湾を見ながら、いつも口にするのは基地問題。海を眺めて、いつも胸が痛む。どうか現実にならず、夢で終わってほしい。

・県外で働く娘の職場では「基地は沖縄が引き受けるべき」「基地で生活が成り立っている」「またさわいでいる」等で、何も反論できない状況で悔しいです。

・心臓を患っているわが身ですが、“いざ鎌倉”というときは、行動を起こさなければならないと思っています。

・一部の有力者(推進派)が上京し閣僚参りをしていることに対し、怒りをとおり超して、情けなくて涙が出る。

・戦争を体験した老人です。基地は恐ろしい戦争へのつながりです。だから造らせない判断を。知事は最後までNOと跳ねのけてください。お願いします。

・戦争世代から子どもたちまでに至る名護市民の願いに応え、未来に続く名護の自然と文化の豊かさを守り、沖縄からアジアに向けての「平和と共生」を発信する使命を果たしていただくことを、心からお願いしたい。

・知事は、市長意見、市民の民意を受け止めて、埋め立て申請を不承認にする責務がある。


(2)移設に賛成する声

〈国防、抑止力の観点〉~国防上、沖縄に基地が必要~


・国防上、絶対基地は必要で、沖縄から基地がなくなれば真っ先に占領され、チベットと同じ運命をたどることになる。辺野古に基地を移すべきだと思う。

・中国が尖閣と沖縄を占領しようと狙っているのは明らか。沖縄県民を守るため、アジアの安全保障のためにも早期に辺野古へ基地を実現させて。

・中国は日本の脅威になりつつあり、辺野古移設は沖縄の安全保障のためにも役に立つと思うので、受け入れるべき。県外移転は抑止力の低下につながる。


〈普天間飛行場の固定化回避〉~普天間の危険性の除去を~

・最善策は国外移設。次善策は県外移設だが、現状では無理で普天間飛行場の危険は解消されないため、次々善策は辺野古になると思う。

・普天間に隣接する学校を、基地騒音から早く解放すべき。

・早急に辺野古に移設して、普天間の危険を除去することを強く希望する。


〈地域振興、経済効果等〉~経済発展のために~

・名護市に若者がとどまり、活気を維持していく最大のチャンス。

・何も決められない状態で年月がたつことが最大の損失。推進によって地元に潤いとその利益を地元の人、子供たちに還元しなければならない。美しい自然の維持と開発を両立させるような施策を望む。

・普天間は基地があって人口が増え、経済が活発化してきた。名護市もおそらく仕事も増え、人口も増加し経済発展が期待できる。


 以上が主な意見であり、他にもさまざまな意見をいただいたが、本章冒頭でも述べたように、そのほとんどが「代替施設受け入れ反対」の声であり、これだけ多くの市民の声を得たことを踏まえると「辺野古の海にも陸にも新たな基地は造らせない」という姿勢に間違いはないと確信した。


むすびに

 名護市では平成25年9月に「名護市環境基本条例」が議決されました。その中で「誰もが先人たちから受け継いできた豊かな環境によってもたらされる恩恵を享受し、良好な環境の中で生活を営む権利を有しているとともに、自然環境の保全および生活環境の創造によって、良好な環境を次世代へと継承する責務がある。」と「環境権」があることを宣言しています。名護市民はその「環境権」のもと、良好な環境の中で生活する権利を有し、それを次世代に継承する責務があります。

 私たち県民は、68年にも及ぶ米軍基地および軍人・軍属による事件・事故等の危険・不安にさらされ、人権をも脅かされる生活を強いられてきました。これらの不合理・不条理さは既に我慢の限界を超え、異常事態と言わねばなりません。いくら国防と言えども、一地域に犠牲を押し付け、地域住民の声を無視し、蹂躙(じゅうりん)することがあってはなりません。

 これまで述べたことから、今を生きる大人が悔いのない選択をすること、未来へ正しい選択を示すことで、未来を担う子どもたちへの道しるべとなるものと確信します。

 よって、市民生活の安心・安全、市の財産である自然環境の保全、未来を生きる子どもたちのため、そして私たち名護市民の誇りをかけて、「普天間飛行場の辺野古移設」に断固反対する、これが名護市民の強い決意であります。


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Posted by n_n at 02:40 │記事