2010年06月02日 10:06
●保坂展人のどこどこ日記
「海外移転は正しい。しかし、米国と交渉せずはおかしい」(横路衆議院議長)
沖縄問題 / 2010年05月30日
普天間基地「移設」問題で、鳩山内閣がはまりこんだのは自民党時代から続いてきた安保官僚(外務省・防衛省)の身体にしみついた「対米追随・条件反射的イエスマン」「米軍基地なら沖縄」という感覚の持ち主たちの「常識」という名の底なし沼だった。当初から安保官僚たちは、「辺野古従来案」以外の選択肢を持っていなかったし、「県外・国外」を検討したことは実は一度もなかったのである。これは、今に始まったことではない。1996年のSACO合意で「普天間閉鎖」が決まった後も、アメリカ側は「沖縄県内」を要求したわけではなく、日本側が「沖縄以外にない」と決めつけていただけだ。「地政学的な理由」で沖縄を選ぶ根拠は「海兵隊」に関しては存在しない。
ところで、民主党の170人もの議員が「辺野古決着」ではなくて「県外・国外」を求める署名を官邸に提出したことは、もっと注目されていい。もっと早くこうした動きが顕在化するとよかったが、無視出来ない数の議員が今回の「閣議決定」に異議を唱えていることもおさえておきたい。横路孝弘衆議院議長も正面から内閣を批判した。
〔引用開始〕
横路衆院議長、「普天間」で異例の政権批判
横路衆院議長は29日、札幌市で開かれた民主党の会合で、沖縄の米軍普天間飛行場移設問題について、「鳩山首相が『海外移転』と主張したのは正しい。問題は、海外移転を内閣全体で決めて米国と交渉してきたかというと、その気配がない。『米国と交渉したが、難しかった』ということなら、多くの国民が理解したと思う」と述べ、政府の対応に不満を示した。
さらに、「日米同盟は重要だと思うが、海兵隊が沖縄にいなければならない理由は何なんだ」とも語り、海兵隊の沖縄駐留にも疑問を呈した。
中立的立場にある衆院議長が、特定の政策課題で政権批判するのは異例だ。
(2010年5月29日20時12分 読売新聞)
〔引用終了〕
ここで、横路氏が言う通りに「海外移転を内閣全体で決めて米国と交渉したのかというとこの気配がない」という言葉に鍵がある。安保官僚の取り仕切る官邸では、社民党の調査団が「テニアン市長の要望」や「北マリアナ連邦上下院の決議」までつけて報告を渡そうとしても、「国外は無理だ」として報告書をひもとこうともしないのが平野官房長官だった。沖縄からそう遠くないアメリカの領土に、「ぜひ駐留してくれ」という島があれば政府与党として検討し議論するのが筋ではないか。鳩山総理と平野官房長官の責任は重い。
やがて3週間後には参議院選挙が始まる。「普天間問題」の迷走の結末が「辺野古現行計画」という愚の骨頂の「閣議決定」をした鳩山内閣が、このまま選挙を戦えるのかどうかという議論が来週は大きく広がる気配がある。メールやツイッターには、「沖縄の辺野古現行計画をつぶすためにも、与党で影響力を行使してほしい」との声がけっこう多かったが、福島党首を罷免して強行した「愚の骨頂の閣議決定」を追認するわけにはとてもいかない。
鳩山首相の急転直下の辺野古回帰には言葉を失った。だが、あきれてばかりもいられない。一国の首相がおびえたように顔をこわばらせ、目を泳がせて前言を翻す。それには、それなりの事情があるはずだ。米国の脅しか、後ろめたい取引か。これを暴くことこそがメディアの仕事だと肝に銘じている。今まで、頼りなくはあっても自分の言葉で話そうとしてきた鳩山氏が、フラフラになりながら沖縄県知事の前で読み上げた文書、あれは誰が書いたのだろうか?
日米共同声明を読む 思いやり予算拡大か 2010年6月1日東京新聞特報欄
普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古移転の方針を明記した「日米共同声明」の中に、気にかかる記述がある。在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の一部をグアムの米軍基地の環境対策に充てる方針が示されているのだ。海外の米軍基地の整備に日本の税金が使われるのか。「思いやり予算」のなし崩し的な拡大が進んでいるのではないか。 (鈴木伸幸、岩岡千景)
五月二十八日に出された日米両政府の外務・防衛担当閣僚による共同声明。問題の一文は、前文に続く二項目。「環境」と見出しの付いた文章の中にある。
「『緑の同盟』に関する日米の協力により、日本国内およびグアムにおいて整備中の米国の基地に再生可能エネルギーの技術を導入する方法を、在日米軍駐留経費負担(HNS)の一構成要素とすることを含め、検討することになる」
HNSとは、在日米軍の駐留経費の日本負担分。つまり「思いやり予算」だ。民主党は野党時代には、思いやり予算の使われ方が不透明で、娯楽目的にまで使われていた実態を問題視。二〇〇八年には、思いやり予算を三年延長するための米国との特別協定案に反対したこともある。
そもそも、思いやり予算は、一九七八年に日本の物価高や財政悪化に悩む米側からの要求で始まった。最初は基地労働者の福利費の負担だけだったが、徐々に拡大。特別手当や基本給、施設設備費や光熱水費も負担するようになり、九九年度には二千七百五十六億円に達した。
現在は減少傾向とはいえ、昨年の事業仕分けでも見直しの対象。過去、〇九年度までの三十二年間の総額は五兆六千億円で、日本と同様に米軍基地を抱えるドイツや韓国などと比べて「負担は過大」とされている。
それでなくとも、問題視されがちな予算なのだが、それに加え、共同声明では、在日の米軍基地だけでなくグアムの基地で使えるかを「検討」するとした。思いやり予算の特別協定は来年、更新期を迎えるだけに、これを想定しての検討の可能性も否定できない。
HNSとは英語の「ホスト・ネーション・サポート」の頭文字。日本語には「主体国支援」とでも訳せるが、それをグアムの基地で適用することは適切なのか。
共同声明発表後の記者会見で、それを問われた岡田克也外相は「検討するということ。詳細については、これからの課題」と回答を避けた。
また、普天間飛行場の返還は、〇六年の日米合意で八千人の海兵隊のグアム移転とパッケージで実施することになっている。
グアム移転に伴う施設やインフラなどの整備費は総額百二億七千万ドル(約九千四百億円)で、日本の負担は六十億九千万ドルとされている。
巨額な移転費用についても、思いやり予算と同様に積算基準について、十分な情報が公開されておらず、批判は強い。今回の検討も、後で振り返れば、環境を大義名分にした新たな予算措置のおぜん立てとなりはしないか、懸念は残る。
ところで、聞き慣れない「緑の同盟」とは何だろうか。外務省日米安全保障条約課の担当者は「日米が協力する中で大事にしていく考えや方向性を示したもので、具体的にどの分野で何をするかはこれからの議論」とはぐらかす。在日米軍駐留経費での負担についても「海兵隊のグアム移転の過程で何ができるかという話だ」としつつ「具体的な決定はこれから」という。
日米関係にくわしい議員や識者は声明のこの部分を、どう読んだか。
共産党の笠井亮衆院議員は「昨年十一月にオバマ大統領が訪日した際、政府は低炭素で持続可能なエネルギーを日米で共同研究する『クリーン・エネルギー技術アクションプラン』を発表。その流れの中で出ており、温暖化防止などの環境対策でも日本のお金をあてにしていると感じる」と話す。
また、市民団体「ピースデポ」特別顧問で「情報公開法でとらえた在日米軍」などの著書がある梅林宏道氏は「米軍には、二酸化炭素(CO2)排出量を削減するために投資するカーボンフリー対策として原子力艦を増やし、軍艦に太陽電池を付けるなどの環境対応計画がある。これまでも在日米軍の近代化で安全や環境を理由にしては日本のお金を充ててきており、同じやり方ではないか」と話す。
また、桜美林大元教授の吉田健正氏は「近年、米国内をはじめ世界各国の米軍基地周辺で、軍用車や軍用機の排ガスや騒音、投下弾による土壌の化学物質汚染、希少動物の減少などの環境破壊が問題になっている。緑の同盟といえば聞こえはいいが、グアムではこうした環境対策は日本の負担だということでは」と読み解く。
吉田氏は「日本はグアム移転費を六割負担するといっても、中身は、グアムにつくる基地の統合整備費の六割というのが実態」と指摘。移転費の日本側負担分の経費は司令部庁舎や教場、隊舎、学校など生活関連施設や住宅と、電力、上下水道などのインフラ整備工事などに使われる。一方、米側の負担分はヘリ発着場や通信、訓練支援、燃料弾薬保管施設などだ。「防衛は米国、あとは日本がやれよということだろう」
また笠井氏は「グアム移転費の負担分として公表されている六十億九千万ドルのプラスアルファになる可能性もある」と、予算のなし崩し的な拡大につながる懸念を表す。
梅林氏も「外国の基地で日本のお金がそうした使われ方をするのは問題がある。特別措置としても原理的に際限がなくなる」と話す。
さらに神戸女学院大学教授の内田樹氏は「軍事的には日本は米国の指揮下に入っており、従属している。財政難で国防予算の捻出(ねんしゅつ)も厳しく、東アジアの軍事的緊張も残る中で、米国が必要な資金を肩代わりしろと言ってきても、合理的な話だ」と指摘する。
吉田氏は「二〇〇五年の『日米同盟・未来のための変革と再編』という行政合意を転機に、日本は米国の世界戦略に組み込まれ、独立国になるどころか米国の世界戦略の片棒を担ぐ方に変わった」とも嘆く。
そして問い掛ける。
「米軍は冷戦後、ドイツやフィリピン、韓国など世界各地の基地を閉鎖、縮小した。日本だけが思いやり予算で駐留米軍の住宅などを面倒みて、基地返還後の原状回復費も負担する。米兵が起こす事件、事故も治外法権といえる状態が続いてきた。排ガスや騒音など国内基地の環境対策もなされないまま、国外の基地の整備はもとより環境対策まで面倒をみるなんて、こんな国がほかにあるだろうか」
<デスクメモ> 鳩山首相の急転直下の辺野古回帰には言葉を失った。だが、あきれてばかりもいられない。一国の首相がおびえたように顔をこわばらせ、目を泳がせて前言を翻す。それには、それなりの事情があるはずだ。米国の脅しか、後ろめたい取引か。これを暴くことこそがメディアの仕事だと肝に銘じている。 (充)
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