2010年10月28日

COP10:Position paper of 沖縄地域作業部会(日本語)

Position paper of 沖縄地域作業部会(日本語)
http://www.bd.libre-okinawa.com/position-paper-j

 沖縄地域作業部会のメッセージ—それは、小さな島々沖縄の大きな宝-沖縄の生物多様性を、「環境」「平和」「人権」で守ること。そして、それは「地球に生きるすべてのいのち」を守る生物多様性条約の地球規模の実現のためであるということ。

CBD市民ネット沖縄地域作業部会のポジションペーパー

【沖縄地域作業部会とそのポジション】

沖縄は、亜熱帯海洋性気候に位置し、希少な固有種が多く生息する、豊かで独特の生物多様性をもつ島嶼である。沖縄地域作業部会は、沖縄の生物多様性の保全と持続的利用を目的に、「環境・平和・人権」の3つのテーマを柱に活動している。これは、「沖縄戦」「米軍統治」「日本復帰」「開発」という沖縄の経験を通して、「環境」「平和」「人権」が密接に結びついていることを学んできたことに基づいている。

私たちは、沖縄の生物多様性が島嶼生態系ゆえの脆弱な環境にあり、人間活動による影響を受け易いと認識している。沖縄の生物多様性の損失の原因は、気候変動による地球温暖化、外来種の導入などが挙げられるが、特に(1)米軍基地・施設の存在と運用(2)米軍基地受け入れの見返りとしての日本政府からの高率補助による乱開発を、大きな2つの要因として考える。

沖縄戦により、人々の暮らしとそれを支える環境が破壊された。米国占領時には、人々は土地を収奪され、そこに米軍基地・施設が建設された。そこで繰り広げられる軍事活動は、土壌汚染や山火事を引き起こし、生物多様性を損失させてきた。また現在、ジュゴンやアオサンゴ群集が生息する辺野古/大浦湾海域では米軍基地建設計画が、やんばるの森では米軍のヘリパッド建設計画が進められている。

一方、復帰後は、米軍基地を受け入れる見返りとして、日本政府による高率補助の制度を通して、多くの公共工事が行われてきた。様々な開発プロジェクトが、米軍基地の存在により失われた土地や経済的機会の見返りとして、環境への配慮なく、亜熱帯島嶼の沖縄の自然条件にそぐわない本土基準に基づいて進められてきた。その結果、海岸線は埋め立てられ形を変え、サンゴ礁も消滅し続けている。現在でも、イタジイが茂りヤンバルクイナが棲むやんばるの森では、沖縄振興開発の高率補助金による林道工事、森林伐採が進んでいる。また、「いのちのゆりかご」泡瀬干潟でも埋め立て工事が推進されようとしている。

これらは、自然環境や文化という、生物多様性からの「恵み」を沖縄から奪うものである。また、このような行為は構造的な差別の上にあり、現在進められている基地建設計画や、公共工事はそれを固定化させるものである。

沖縄においても、市民やNGOによる生物多様性や環境の保全に対する取り組みは行われてきた。しかしこの構造ゆえに、取り組みは様々なハードルに直面し、限界がある。例えば、米軍基地・施設内における環境保全の取り組みには、日米間の協定により市民が参加できない。また、環境と自分たちの暮らしを守ろうとするやんばる高江の住民に対して国が起こした訴訟は、大きな人権問題となっている。


【提言】

沖縄地域作業部会は、上記の現状を踏まえ、以下の8点を提言する。

提言1 生物多様性条約に対して

 島嶼の生物多様性について、生態系の脆弱さだけではなく、地政学的・政治的な脆弱さを考慮すること、それが国単位でなく、国内の「南北問題」として島嶼地域に見られることを認識し、Programme of Work on Island BiodiversityやGlobal Island Partnership(GLISPA)に反映させることを提言する。

亜熱帯海洋性気候に位置する沖縄は、多くの固有種、固有亜種が生育・生息している。しかし、島嶼生態系は脆弱であり、森・川・海での人間活動の結果が互いに影響を及ぼし、生物多様性を劣化させる。CBDCOP8やCOP9で示されたように、沖縄が直面している生物多様性の危機は、まさに、これに起因しているといえよう。

 同時に、島嶼の脆弱性は、生態系のみからの面ではなく、地政学的、政治経済的な面からも指摘されるべきものである。島嶼は国内でも周縁的な位置を与えられ、「中央」の政策に飲み込まれることが多い。その差別は構造化され、迷惑施設を押しつけられ、見返りとしての公共事業補助で、島嶼の生物多様性の保全は困難な状況となる。

生物多様性条約の前文には、「開発途上国のニーズ」「後発開発途上国及び島嶼国の特別な事情に留意し」の文言があり、グローバルな格差問題には配慮がされているが、国内の南北問題の構造には触れられていない。国家間の格差のみならず、島嶼の声を反映する回路を確立し、「中央」や「北」の基準を強いられることなく、脆弱な島嶼の豊かな生物多様性に適した施策を、Programme of Work of Island BiodiversityならびにGLISPAで展開させることを生物多様性条約に提言する。

提言2 米国、および生物多様性条約・締約国、国連環境計画に対して

 米国が、生物多様性条約を批准することを提言する。生物多様性条約、締約国、国連環境計画には、生物多様性条約の批准を米国に働きかけることを提言する。遺伝資源の公正な配分の面からのみでなく、米国の外交政策が世界的に影響力が大きいという面からも、強い働きかけを求める。

米国の外交政策は世界的に影響力が大きく、直接・間接的に生物多様性や環境の問題と関わっていることは疑うべくもない。特に沖縄の経験から明らかなことは、米軍基地が駐留国や駐留地に及ぼす環境への悪影響が大きいこと、また、環境対策に透明性がなく、米軍に対して説明責任を要求できないことである。これが沖縄の経験だけでないことは、2009年11月に沖縄で行われた国連環境計画「環境規範と軍事活動に関する国際市民社会作業部会」会議でも確認されている。提言1で指摘した島嶼地域が米国内にあり(プエルトリコ、ハワイ、グアム)、基地被害を受けていることも留意すべきである。

 よって、米国に対しては、生物多様性条約の批准を提言する。また、生物多様性条約事務局、締約国、および国連環境計画は米国に対して、生物多様性条約を批准するよう、強く働きかけることを提言する。特に日本政府は議長国として、米国へ強く働きかけることを要求する。

提言3 締約国特に日本政府に対して 

生物多様性条約に示されているとおり、生物多様性の問題が、環境問題のみならず、平和や人権の問題に密接に結びついていることを明確に認識すること、また、新戦略目標Aで挙げられている生物多様性の主流化(mainstreaming)の推進においては、平和や人権への視点を取り入れることを、締約国、特に議長国である日本政府に提言する。

生物多様性条約では、自然保護、環境の視点のみではなく、平和、人権の視点が謳われている。しかし、日本国内の生物多様性基本法や、国家戦略では、このような条約の精神が反映されているとはいえない。国内の問題として、沖縄やんばる高江では、「いのち」「くらし」「環境」を守るために、米軍ヘリパッド建設反対のために住民が座り込み運動を行っている。国はその住民を訴えるスラップ訴訟と呼ばれる裁判を起こしているが、これには「いのち」を守ろうとする人々への権利の視点をもって対処していかなければならない。これらの視点を政策に反映させることを、全ての締約国に、特に議長国である日本政府に提言する。

提言4 日本政府に対して

 新戦略目標の達成のために、生物多様性を損なう活動にブレーキをかけること、多くの種を育む場の多様性が重要であることを認識し、手つかずの自然環境の保全を第一の原則とすること、そのための実効性のある政策を策定することをポスト「生物多様性国家戦略2010」の優先事項とすることを提唱する。

 日本政府は、1995年から「生物多様性国家戦略」が策定されていたにもかかわらず、生物多様性の損失に歯止めをかけられなかった。「生物多様性国家戦略2010」においても、これまでの生物多様性の損失の原因の適切なレビューをせず、生物多様性を損なう人間活動を特定化せずにいる。まず現在行われている生物多様性の損失を促進させている人間活動をストップさせることをポスト「生物多様性国家戦略2010」で最優先事項とすることを提言する。特にイリオモテヤマネコ、ジュゴンをはじめとする絶滅危惧種や希少種においては、一刻の猶予もできない状況であり、その保護のため、「種の保存法」など既存の国内法の実質的な履行や適用、および有効な保護を実行できる立法と施策を要求する。

今後の生物多様性保全策としては、多くの種を育む場の多様性が重要であることを認識し、動植物の移動、移植などではなく、手つかずの自然環境保全を第一の原則とすることをポスト「生物多様性国家戦略2010」に掲げることを提唱する。また、事業者による事業実施を前提とした日本の環境影響評価制度が機能していないことを認識し、議長国であることを機会に、生物多様性条約の「生物多様性を組み込んだ環境影響評価に関する自発的ガイドライン」や「Akwe Kon(アグェー・グー)」等を積極的に取り入れ、生物多様性からの視点をより取り入れた改正を行うことを特に、要求する。

提言5 日本政府に対して

COP10の議長国として、これまでの国際的な要求に応答することを求める。日本政府に対して行われたこれまでのIUCN(国際自然保護連合)の決議、勧告、国連の先住民勧告など、国際社会から要求されていることに関して、COP10において応答することを要求する。

 日本政府はこれまで、ジュゴン、ヤンバルクイナ、ノグチゲラに関するIUCN(国際自然保護連合)の勧告、決議内容を履行していない。また国連自由権規約委員会、人種差別撤廃委員会が、沖縄人を先住民族として認め、沖縄が抱える現状に対して出した勧告に応えていない。このような日本政府の態度は、沖縄の生物多様性の危機を助長し、同時に生物多様性条約が重視する先住民の権利を無視することを意味する。COP10議長国として、国際的な要求に応えることを提言する。

提言6 日本政府に対して

 日本政府は、COP10の議長国であり、生物多様性に関しての指導力を求められているが、国内でその立場と矛盾した政策が多々ある。議長国としての立場と、国内政策の整合性についての説明をCOP10において、国内/国際社会に向かって行うことを求める。

日本政府は、乱獲や開発に伴う海の生態系への影響を防ぐため、持続可能な海の利用の在り方を定めた「海洋生物多様性保全戦略」の策定を、来年春までに予定している。また、COP10においては海洋・沿岸が重要議題となり、日本は議長国としてリーダーシップを発揮する必要がある。決議案には「サンゴ礁とその他の脆弱な沿岸生態系を最小化する」(Target 10: By [2020][2015], to have minimized the multiple pressures on coral reefs, and other vulnerable ecosystems impacted by climate change or ocean acidification, so as to maintain their integrity and functioning)とあるにも関わらず、まさに脆弱な沿岸生態系を有する生物多様性豊かな辺野古/大浦湾海域に米軍基地建設計画を推進することは、上記のような政策や役割と明らかに整合性がない。現在行われている環境影響評価も、提言5で言及しているIUCNの決議を無視するままに進められている。また、ラムサール条約の登録基準を満たし、生物多様性豊かな泡瀬干潟は、国と沖縄市により、埋立てられようとしている。

このような生物多様性豊かな海域を破壊する政策に、私たちは強く反対する。日本政府は、議長国としての立場と国内政策の矛盾の説明責任を果たすべきである。日本政府は、この計画を中止し、議長国が生物多様性立国を目指す国であることを示すことを強く期待したい。さもなくば、日本政府は、ダブルスタンダードを露呈する名ばかりの議長国となる。日本政府は、日本国内の生物多様性保全に寄与することが、地球規模の保全と、新戦略目標への達成につながることを強く認識することを要求する。

提言7 日本政府・沖縄県に対して

具体的な生物多様性地域戦略策定アクションプランを財政、制度的な裏付けとともに作成し、地域の生物多様性保全に実質的な効果のある戦略策定を促進することを提唱する。策定には、市民と行政の対話を重視する。

COP9で「都市・地方政府の参加促進決議」が採択されているように、生物多様性の保全には、地域の取り組みが必要である。しかし日本では、自治体の地域戦略策定が、生物多様性基本法において努力義務規定であることや、財政的な支援がないために取り組みが遅れており、策定自治体は10県市にとどまっている。

沖縄地域作業部会においても、沖縄県生物多様性地域戦略策定に取り組んでいるが、NGOや市民の積極性と沖縄県の消極的姿勢のギャップを埋めることに苦慮している。策定推進のため、生物多様性基本法における、現在の努力義務規定を義務規定にし、市民参加を保証する策定過程を明文化することを日本政府に提唱する。

また、同戦略が地域に根ざした、実効性のあるものとするために沖縄県に以下を提案する。
1)沖縄の生物多様性の保全のためには、その実態を徹底解明することが必要である。これを組織的に実行する制度と財政などのサポートシステムを戦略の中で保証する。
2)地域の生物多様性を、生物多様性の主要な「守り人」である地域住民が理解することが必要である。地域住民を巻き込んだ環境モニタリングシステムを戦略の中で構築し、多くの種を育む場の多様性が重要であることを普及啓発するためのツールとする。
3)行政は市民モニタリング調査の結果を政策に反映させるなど、市民の持つ知識、経験を尊重し、政策に反映させる。業者への安易な外部委託は避け、常に市民との対話の中で政策策定・決定をする。
4)島嶼の脆弱性を考慮した、本土よりもより繊細な法・制度(保護区設定、環境影響評価条例など)を積極的に促進する土台となる法的根拠を地域戦略にもたせる。

提言8 生物多様性条約を支える市民に対して

  生物多様性条約を解釈し、実現していく主体は、地域、コミュニティー、市民であることを確認し、生物多様性条約への関わりを深めることを提唱する。

COP10は政府間会議であるが、生物多様性条約を解釈し条約の目的を実現していくには、生物多様性を一番近くで守っていく単位である地域、コミュニティー、個人が主体として不可欠であることを確認することを市民に提唱する。提言3で指摘しているとおり、日本の生物多様性国家戦略が環境保護のみに重点を置き、条約の精神を反映しきれていないことから、人権、平和を活動の柱とする沖縄地域作業部会の活動が「特殊」扱いされることがある。しかし私たちは、国家/政府は、条約の解釈を制限し、生物多様性条約の実現のための活動に中央/周辺の関係をつくるものであってはならないと考える。市民はその制約を受けず、条約を自ら解釈し、むしろ条約実現の活動を発信する役割であることを確認することを提唱する。

生物多様性条約市民ネットワーク 沖縄地域作業部会
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Posted by n_n at 21:32 │座り込み