2009年02月17日

ヒラリー・R・クリントン米国務長官へ

ヒラリー・R・クリントン米国務長官へ

 日米両軍の戦場となった1945年から現在まで続く沖縄の米軍基地の存在は、沖縄の人々から歓迎されたことはありません。米軍基地をめぐって沖縄の人々は自らの意思を表明する機会すら奪われてきました。ウッドロー・ウィルソン米大統領は、1918年に世界に向かって明らかにした14カ条の平和原則で自決権について次のように述べています。「当事者である住民の利害が、法的権利の 決定を持つ政府の請求と同等の重みを持たされなければならない」という自決権は、世界平和を実現するための不可欠な条件であると。21世紀に入ってもなお、この自決権のかけらさえ沖縄の人々には遠い存在のままなのです。沖縄における基地問題の原点はここにあります。

 米大統領や米国議会が、たとえ米軍基地の存在に苦しむ沖縄の人々へ感謝の気持ちを表明したとしても、それは決して沖縄の人々には届きません。強制的に沖縄の人々から土地を取り上げて建設された米軍基地、米兵が中学生をレイプしても日本の裁判権を制限する日米の取り決めの存在、米軍の使う飛行場建設のためにサンゴ礁を破壊しても日本政府が建設するのだから米政府は関知しないとする態度などを、沖縄の人々は目のあたりにしてきました。また、米国での設置基準に違反していても使われ続ける米海兵隊飛行場に不安と危険を覚え、人が寝静まる深夜・早朝に轟音をたてて飛び立つ米軍機などの騒音に今なお悩まされています。こうした負荷が、狭隘な島々の沖縄に64年以上もの間、かかり続けているのです。米軍基地の存在は沖縄の経済や政治だけでなく、社会のありようや人間の誇りまでをも歪にしているのです。痛めつけられながら「よく我慢してくれてありがとう」と言われて、その通り受け入れられると思いますか。
 沖縄は、いうまでもなくアメリカの領土ではありません。約5万人の米軍将兵やその家族が、自国のごとく行動すべき空間ではありません。なによりも忘れてもらいたくないことは、沖縄を構成する島々には、あなたの家族、友人と同様に世界人権宣言が唱える「生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利において平等」に扱われるべき人々が暮らしている現実です。
人類誰もがもつ固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利が、沖縄の地では守られていません。今なお基地を置き続ける日米両政府はかつて、1952年のサンフランシスコ平和条約で米軍による事実上の軍事占領を合法化し、1972年の沖縄施政権返還後には基地存続のために、経済的・財政的恩恵という名の代償を沖縄につぎ込んできました。日米両政府の対沖縄政策はかつての「力による支配」から、より残酷な「カネによる支配」へと姿を変えてきています。
 その残酷さとは、沖縄経済や財政において代償となるカネへの依存度を高め、そのカネから逃れられない状態を作り出して、基地を受け入れる以外の選択肢を沖縄の人々から奪っていることです。同じ国民であっても日本の中で差別されている沖縄の現状は、不条理というしかありません。米政府は、いわば日本政府による対沖縄「麻薬漬け作戦」に依拠する形で、世界の秩序と安定にむけた超大国の役割を果たしているのです。社会的弱者の人権侵害、地球の財産であるサンゴ礁の破壊が、現実の沖縄で進行しているのです。それらは、先進工業国であり民主主義国である日本の領域内で起きているのです。

 沖縄の人々から「人間としての尊厳」を奪っている状態の上に米国の価値観を中心とした「世界秩序」そして「日本の安全」が築かれているということに、世界の平和に関心をもつ者は関心を寄せるべきです。沖縄の現状は、人類が修復すべき地球の裂け目の一つなのです。それは人類が解決すべき課題のほんの小さな一つに過ぎないと言えるかもしれません。しかし、そこに暮らす人々から支持を得ない軍事基地は、その地からいつ追い出されてしまうのかという不安を抱え、危機に直面し続けます。こうした米軍の抱える不安や危機という負担が沖縄の人々の側へと押しやられてくるのです。
 日米両政府は2005年と2006年に在日米軍基地の再編協議で結論を出しました。それは、沖縄に新しい基地を建設して、沖縄での基地維持の長期化を狙っています。この計画は、長い間にわたる負担を抱えてきた沖縄の人々に、日本の国民誰もが嫌がる負担を押し付けるものです。クリントン国務長官の訪日中に調印予定されている、在沖米海兵隊のグアム移転をめぐって日米両政府が新たに締結する協定に、沖縄の人々のほとんどは反対です。

● 私たちは、日米両政府に対し新基地建設(沖縄県名護市での飛行場、東村でのヘリ・パッド)の中止を求めます。
● 私たちは、日米両政府に対し米軍再編合意のパッケージ取引が強者の論理に過ぎないと考えており、無条件での普天間飛行場の返還を求めます。
● 私たちは、日米両政府に対し米軍基地の一層の縮小(計画されている嘉手納以南の米軍基地返還を含む)を求めます。

 クリントン国務長官には、この訪日を機会にして民主主義、人権、環境の視点から64年にわたって沖縄が陥れられている現実を理解していただき、オバマ新政権で新たな対応を検討するよう期待しています。
 景気の深刻な後退から脱却を目指してオバマ大統領は、日本経済の「失われた10年」を反面教師としています。沖縄の人々は、米軍基地による「失われた64年」の終わりの始まりを希望しています。

2009年2月14日

新川明(ジャーナリスト)、新崎盛暉(沖縄大学名誉教授)、大城立裕(作家)、我部政明(琉球大学教授)、桜井国俊(沖縄大学学長)、佐藤学(沖縄国際大学教授)、島袋純(琉球大学教授)、比嘉幹郎(政治学者)、星野英一(琉球大学教授)、照屋寛之(沖縄国際大学教授)、三木健(ジャーナリスト)、宮里昭也(ジャーナリスト)、宮里政玄☆(沖縄対外問題研究会代表)、由井晶子(ジャーナリスト)☆印は代表。
連絡先:我部政明 電話&FAX 098-895-8215 (〒903-0213)
         沖縄県西原町字千原1番地 琉球大学法文学部内




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Posted by n_n at 18:30 │おしらせ